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2008年5月12日 (月)

遺書に名前を 密室脱出法の実演二

 そんなところへ銀色に光る四輪駆動車が、カーブを曲がってくるのが見えた。何処のメーカーで、何という名前の車だろうか。いやみにもバディのポンコツの隣に並べて止める。
 運転していた男は、ドアを開けひらりと飛び降りる。サングラスをはずし、「お待たせ」と、のたもうた。そして小屋の方へ颯爽と歩いてくる。
「こちらがライヴハウス、ロッキン・ロックのオーナー、菊池さんです」と、老人に紹介する。
「初めまして、菊池です」と、老人に右手を差し出す。握手を求められたことに老人が気づかなかったので、照れ笑いをしながらその手を引っ込めた。
「ところで、あんたは寺島んちの坊主の知り合いと聞いとるが、いったい何の用かな」
「実は、私はジミーの自殺に疑問を持っています。その日生きているジミーと最後に会ったうちの一人なんですが、これから死に行くようには見えなかった。私は殺されたんだと思っています」
「じゃが、殺されたんだとしたら、あの時の状況をどう説明する。この地面は見ての通りの粘土や。雨で柔らかくなった粘土の上には、足跡は小屋に入っていく一組しかなかった」
「つまり、ジミー以外の人物がここを出入りしたということはないと言うのですね。でも、私なら出来ます」
「どうやって?」と、俺。
「今から見せましょう」と、菊池は小屋の入り口の下に立った。「いいですか。犯人は雨の降る前から小屋の中で、ジミーの来るのを待ち伏せしていた。そしてジミーが来ると、首にロープをかけて、梁に吊した」
「それから?」
「現場を後にしようとして、外を見ると、雨ですっかり粘土の地面は柔らかくなってしまった。ここに足跡を残すと、せっかく自殺に見せかけようとした事が失敗に終わってしまう。いや、もしかしたら犯人は、雨が降るのを計算の中に入れていて、より自殺に見えるようにしたのかもしれません」
「それで犯人はどうしたと考えているんですか」
「こうしたんですよ」
 菊池はこちらに背を向け、入り口の上の少しの出っ張りに指を掛け、ぐぐっと懸垂をするように体を持ち上げた。左手の指先だけでぶら下がりながら、右手を伸ばして小屋の屋根に指先を持って行く。そこに何かとっかかりを見つけて、今度は右手の筋肉が盛り上がり、体をさらに上に引き上げる。左手も屋根の上に掛けられ、あれよあれよと見る間に、菊池は屋根に上っていた。
「フリー・クライミングのテクニックを使ったんか。でも、それは誰にでも出来ることじゃない。見たところ入り口の上の出っ張りは一センチぐらいしかないし」
「でもまぁ、ある程度の腕力と技術があれば出来ることですよ」
「そうなると一番怪しいのは、菊池さん、あなたになりますよ」と、俺は上に向かって指さした。
「だからあなたたちに僕のアリバイを調べてもらったんですよ」と、菊池は下に向かって指さした。
「ああ、そういうことか」
「二人の女は僕の部屋でかち合って、次の朝まで冷たいにらみ合いをしていたと証言したでしょう」
「たしかにそうだけど」
「二人の話しは、なにか偽証している感じでもありましたか。うそをついている風に見えましたか」
「いや、そうは思えなかったけど」
「それなら僕にはアリバイがある」

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